【特集】京都宇治で伝統を育み進化を続ける「昇苑くみひも」。独自の強みとその核となる「人」の力とは。

「昇苑くみひも」ー京都宇治にて1948年創業。歴史とともに育んできた伝統を守りながら、現在も手組の技術と製紐機(せいちゅうき)による機械組の両輪で様々なニーズに対応し、進化を続けている。今回くみひも作りの工程を取材する中で、独自の強み、さらにはその核となる「人」の力を知る事になった。
「くみひも」とはその名の通りひもを組み上げて作る伝統工芸品である。まずは手組、機械組に共通の工程からご覧いただこう。

 

染色~経尺

一. 染色
「昇苑くみひも」の魅力の1つは深みのある美しい色である。ハッとするほど鮮やかでしかもしっとりと奥深い色合いに、見れば見るほど惹き付けられる。
染色の写真染色は力仕事で体力勝負。特に夏場はもうもうと暑い中での非常に大変な作業になる。染料がきちんと全体に行き渡る様、丁寧に糸を動かしていく。絹糸には酸性染料を使用するため、酢酸で色を定着させる。酢酸を入れる量やタイミングなどにも気を配らなくてはいけない繊細な作業だ。特に薄い色だと僅かな誤差でも色ブレにつながりやすいので注意して行う。安定した色を出すのはまさに職人技である。

二. 糸繰り
糸繰りの写真染色を施した糸を巻き取っていく。糸は絡まりやすく一度絡まると直す作業に大変な手間がかかる為、事前に気付く必要がある。指先で糸の状態を感じながら、糸が絡まったり切れたりしない様に丁寧に、かつ速く作業を行わなくてはならない。こうした技術を身につけるのに近道はなく、「いかに糸に触り慣れているか」という日々の努力と経験が物を言うそうだ。

三. 経尺(へじゃく)
次にくみひも作りの肝とも言うべき「経尺」の工程に入る。目的のひもに応じて設計図通りに糸を合わせていく。糸の色や長さを合わせ、出来上がりのひもの太さに応じて束ねる本数を調整し、ひもの種類に応じて必要な数の枠に巻き取っていく。
巻き取りの写真糸が絡まらない様に、また糸切れが起こらない様にと細心の注意を払って行う。やはりここでも熟練の技が必要だ。手から感じる僅かな違和感を見分けながら、正確かつ迅速に作業を進める。

くみひもは複数の糸を組んで一本のひもに仕上げる為、一本でも糸が少ないと最終的にひもが何倍も細くなってしまう。また、それぞれの糸が拮抗した力で互いに絡み合って出来る為、一部分だけ本数が少ないとバランスを崩し、ねじれなどが生じてしまう。それだけにこの工程では神経を使って慎重に行わなくてはならない。

さて、ここから手組、機械組で工程が分かれていく。手組はこの後木玉に糸を巻き付け、複数の玉を使って組み上げを行う。機械組では糸に撚り(ねじれ)を掛け、ボビンに巻き付け、製紐機による組み上げを行う。

まずは手組で使用される組台からご覧いただきたい。

 

伝統の手組

〈角台〉組紐体験でも使用されている角台はひもが台の上に組み上がってくる仕組みになっており、仕上がりを目で確認しながら組む事ができる。玉を動かす位置を一つ隣に変えただけで丸いひもが四角く変化するなど、一見シンプルでも出来上がるひものバリエーションは豊かだ。

〈丸台〉現在の丸台は中央の穴からひもが下へと組み下がっていく仕組みだ。仕上がりを目で確認しにくく角台より難易度は上がるが、丸い台の形状を利用して丸紐だけでなく平紐も組むことが出来る。

〈綾竹台〉くみひもは織物の様に縦糸と横糸が垂直に交差する仕組みとは異なるが、その中でもこの綾竹台は比較的織物の構造に近いそうだ。織物の横糸に当たる「抜き糸」の締め具合によってひもの固さを調整する為、一定の力加減とリズムで作業を続ける技術が必要だ。

〈高台〉台の中央に組み手が座る高台では、左右に広がる糸から一本のひもを組み上げていく。今回、その様子を見学させていただいた。

見学時に使用されていた玉の数は60で、上下二段に分かれた糸を繰ることでひもの表と裏を同時に組まれていた。事前に多くの玉を準備し、表裏二倍の手間と時間を掛けて組み上げていくのはそれだけでも大変だ。

美しく仕上げる為には手の力加減や糸を叩く角度を一定にしなければならない。経験がないと間違いを直す事すら難しい、複雑な構造である。当然、経験により培われた熟練の技術が必要だが、その難しさを一切感じさせないリズミカルでスムーズな手の動きに、つい見入ってしまった。

(綾書き)

職人の方によると「まず一番大事なのは真っ直ぐなひもを作る事」だそうだ。そして経験を積み上手くなると、綾書きを見ながら模様にも挑戦する。「綾書き」には様々な呼び名がある様だが、つまりは組み方が順番に書かれた楽譜の様な物である。

複数の糸が斜めの方向から絡み合って一本の真っ直ぐなひもが組みあがる為、真っ直ぐに組むのが難しいのは勿論のこと、綾書き自体も単純な計算では成り立たない。これを作るには数学的な頭をかなり使うのではないだろうか。さらに、この綾書きを見ずに模様を組める方もおられると言うのだから驚きである。
それにしても、どの組台も「どの様に計算して作ったのか」と考え込んでしまうほど複雑な仕組みである。組台を見た海外の方などは「ひもを組む為にこれだけ労力をかけて作られた道具があるとは」と非常に驚かれるそうだ。美しいくみひもの素晴らしさだけでなく、複雑に計算されよく考えて作られたこれらの組台自体も日本の誇りである。
(組紐体験で使用される角台。組台の反対側に重りが付いている為、初心者でも一定のテンションで組む事が出来る。)

さて、次に知っていただきたいのは、手組だけでなく機械組においても職人の技術、知識、経験が生かされているという事だ。幅の調整、重りの調整など繊細な作業を行う様子は、いわゆる「オートメーション」のイメージとは少し異なるかもしれない。

 

職人の技が光る機械組

ひもを組む前に、まずは糸に撚りを掛けていく。重りとのバランスなど微調整を行う為、機械を扱う職人は糸と機械の性質を充分理解している必要がある。

次に足踏みのモーターを使い、手で糸をボビンに巻いていく。ひもを組んでいる最中に糸がずり落ちたり他の糸の下に潜り込んだりしない様、糸を平均的になだらかに巻かなくてはいけない難しい作業だ。もし糸が他の糸の下に入り絡まると、機械に負荷がかかり止まってしまう。

そしていよいよ組む工程である。現在60数台ある昔ながらの製紐機にはベルトと歯車が付いており、2つのモーターで動いている。レールに沿って糸のついたボビンが動き、手組と同じ動きを繰り返していく。

レールには様々な形状があり、その形によってボビンの動きが変わる為、丸紐、平紐など出来上がりのひもの形も変わってくる。昔から和装小物を作ってきた「昇苑くみひも」は、特に幅15ミリくらいまでの細いものを得意としている。

糸のテンションなど、事前の設定は熟練の職人が行う。重りを軽くするとふんわりと、重くすると目の詰まったひもが出来る。また歯車によってスピードが変わり、スピードによってひもの柔らかさが変化する。柔らかいネックレスやしっかりとしたキーホルダーなど、用途に応じた調整を行っている。

また、染色の工程や糸の色も滑りやすさに影響を与える為、様々な要素を計算に入れて調整する必要がある。

この様に、機械組においても手組における知識、経験、技術が必要になる為、手組の物と同じくお客様から「工業製品」ではなく「伝統工芸品」として評価されている。

出来上がったくみひもの多くは、全国にある江戸紐の飾り結びの教室や手芸店などへと卸される。結びの世界で第一人者の先生方にも提供されているそうだ。

さらに「昇苑くみひも」では撚り房の機械を導入しており、職人の手によって業界屈指の品質を維持している。撚り房は一本の糸から出来ていて、この全てがつながった状態から、最終的には数珠などに付けられる房一つひとつに加工される。

 

バラエティ豊かな商品から見えてくる「昇苑くみひも」の強み

様々な工程を経て作り上げられたくみひもは、加工、検品の工程でさらに表情を変える。何と60年以上も働いておられる方もいらっしゃると言う工房で、帯締め、扇子の飾り、髪飾り、ストラップ、時計のベルト等々、バラエティ豊かな商品が作られている。依頼元も企業や学校、寺社に至るまで様々である。くみひもはあらゆる場面で利用価値が高い様だ。
「昇苑くみひも」はこれまで多種多様な商品依頼に応え、そこで培った技術を新たな商品に応用するなどして技術を蓄積し商品の種類を増やしてきた。その柔軟性と対応力を支えているのが、何事にも挑み続ける姿勢と、職人一人ひとりが持つ高い技術力である。
通常なら他社に任せるであろう染色、経尺、撚り房を作る工程なども「昇苑くみひも」では一社の中で行うという大きな挑戦をしてきた。こうして細分化された工程一つひとつを自社の職人が行う事で、小ロットから多品種のオーダーメイドに対応する事が可能になる。

実際、普段は使用しない麻や綿の糸をくみひもに仕上げる事もあるそうだ。ここまで柔軟に対応できるのは熟練の職人の知識、経験、技術があるからに他ならない。

(今回の取材では統括部長の能勢氏にお話を伺った。)

ただ値段を下げて他社と競争するのではなく、今までに無かった物を提供したり、供給が少なくお客様が困っているところの受け皿になりたい。この様な思いで小ロットからのオーダーメイドに対応したところ大変喜ばれ、逆にお客様から商品のアイディアをいただくなど良い循環にもつながっているそうだ。
「昇苑くみひも」は現在も新たな挑戦を続けている。「ONE PIECE」、「名探偵コナン」、「進撃の巨人」といったアニメとのコラボ商品や海外向けのコレクションなど、華やかな商品の数々を生み出す。職人同士の連携プレーから顧客との化学反応、さらにこうした他社との挑戦を続ける「昇苑くみひも」からは今後も目が離せない。
今回の取材を通して、「伝統」にはこれまでの概念と異なる部分があると気付かされた。「伝統=くみひも」という単純な図式ではなく、従来の方法を基本の軸としながらも新たな事に柔軟に対応し挑み続ける精神自体が、一社の伝統となり受け継がれていく。お客様と真摯に向き合う中で新たな強みを得て進化を続ける「昇苑くみひも」の魅力は、こうした独自の強みとそれを支える熟練の職人一人ひとりが持つ「人」の力ではないだろうか。

【昇苑くみひも 宇治本店】
住所 宇治市宇治妙楽146‐2
定休日 不定休(お盆、正月を除く⇒facebookInstagramで確認)
※2018年12月29日(土)午後~2019年1月3日(木)はお休み
営業時間 10:00~17:00
電話 0774‐66‐3535
HPはこちら

◆関連記事
2018年11月27日に移転オープンの「昇苑くみひも 宇治本店」はこんな感じ!
「昇苑くみひも 宇治本店」であこがれの手組体験を。

◆宇治川周辺のお店一覧はこちら