【特集】洋菓子の巨匠 山川シェフの集大成「Patissier Yamakawa / パティシエ 山川」宇治 / 伊勢田


「僕ね、仕事の夢って見ないんですよ。悩んで考え込むって、あまりないんだよね。」 笑顔でさらりとそう言ってのけたのは、現在宇治伊勢田に「Patissier Yamakawa(パティシエ山川)」を構える山川良廣氏。

数々の功績を残してきた山川シェフ。彼の作る美しい洋菓子は一瞬のひらめきから生まれるのだという。「あっ、と感じたらすぐに取り掛かる」そうだが、それが難なく成功してしまうのだからただ者ではない。超絶技巧、天性の才能、選ばれし人間。圧倒的な才能を持つ彼の前では、どんな賛辞も陳腐な表現に思えてしまう。

山川良廣。20代の頃から早くも頭角を現していた彼は、若くして神戸アンテノール初代製菓シェフに就任、爆発的な人気を呼んだ伝説のケーキ「パニエ」を生み出し、その後もホテルグランヴィア京都初代製菓調理長、マールブランシュ統括製造部長などを務めてきた。

才能は時に人を驚かせ、時に人を感動させる。

ある時10種類ほどのお茶を飲み比べた山川シェフは、それぞれの味や相性の良い組み合わせまでを的確に言い当て、相手を驚かせた。その時の経験をもとに作られた抹茶フリアンは、山川シェフの生まれ故郷である京都宇治に自身の店としてオープンした「パティシエ山川」の名物となる。香り高い抹茶フリアンは多くのファンを生み、彼が店を退いた後もその味を懐かしむ客が多かった。その声に後押しされて、2017年4月「パティシエ山川」が伊勢田に再びオープン。店頭には「あの抹茶フリアンがまた食べられる」と涙ながらに喜ぶ客の姿もあるという。
目にも鮮やかなグリーン。その秘密は調理の火加減にある。ただ、「同じレシピでも違う人が作ったら違う味になる。それが面白いところ」だそうだ。さらに驚かされるのは、ビロードの様にしっとり妖艶な生地の舌触り。潤いを持って舌の上に残るので、抹茶本来の上品で豊かな風味をより一層楽しめる。まさに食べる濃茶と言うべき特別な菓子である。その上、現在のものは以前よりもさらに味に深みが増しているのだから本当に凄い。

山川シェフの才能はひと言では語れない。まだ誰も有機抹茶に目を付けていなかった時代。「有機栽培という事自体が凄い事だから試してみたい」と、誰よりも早く有機抹茶を使った菓子を試作した。口にしてみて驚いた。これはいける―。そこから改良を重ねて抹茶フリアンが誕生。有機抹茶は熱に強く焼き菓子に向いているそうだが、それを上質な焼き菓子へと昇華できるパティシエは未だにあまり多くはない。

店には他にも色々な焼き菓子が並ぶ。どれもしっとりとした食感で、味、香りともにプロの技を感じるものばかり。

上品な風味を出す為に玉露茎ほうじ茶を使用したほうじ茶フリアンは、鼻から抜ける深く清らかな香りにため息が出る。ガトーショコラにイチジクを載せたガトーショコラ フィグは、濃密で高級感ある味わい。時間をかけてセミドライされ糖度の上がったイチジクを使用している。パン・ド・ジェーヌ(アーモンドを使った焼き菓子)にセミドライのアプリコットを載せたガトー アプリコは、甘酸っぱさが楽しい。味を引き立てているのは、アプリコットと相性抜群のココナッツ。アーモンドの香りとコクが生きているアマンドショコラにも定評がある。甘み、コク、爽やかさ。すべてのバランスが非常に良く、多くの支持を得ているのもうなずける。

素晴らしいのは山川シェフの才能ばかりではない。才能は人柄によってより輝きを放つ。作りやすい菓子でも決して手を抜かず、難しいものと変わらず真っ向から向き合う姿勢。菓子作りとどう対峙するかは味に如実に表れるのだという。また、今までどんな難題にも取り組んできたという山川シェフ。「周りの方のお陰でこういう姿勢ができた」、と謙虚で感謝を忘れない人柄も味に表れているように感じる。「最後に愛情を加えるのよね」と隣で微笑む奥様。一番近くで見てきた方の言葉に妙に納得してしまう。並々ならぬセンスや腕があるうえに真面目で勤勉、真剣勝負。何かを成し遂げる為には努力を努力だと感じず真っ直ぐに突き進む。それが洋菓子の巨匠、山川シェフの無類の強さを生んだのである。

【Patissier Yamakawa(パティシエ山川)】
営業時間 11:00〜16:00
定休日 月・火 (不定休)
住所 京都府宇治市伊勢田町名木1-1-220
駐車場 有
HPはこちら
※ホールの誕生日ケーキ受付可(1週間前に連絡)
※メール、インターネットでの受付・配送有