Trend Report 和・洋・中・焼肉まで。変わる京都の朝食シーン 過熱する京都の朝食市場


「うちでは鮎をお出しするのをやめておきます。早松茸と牛肉のすき焼きにしましょう」貴船のとある料理人が放った台詞である。
 夏の日のことであった。知り合いの食いしん坊が数名の仲間を連れて京都にやってくる。夏なので「床」を含め三日間の食事処を推薦してくれという要望であった。「床」を持つ料理店を含め数件の店を紹介した。
前述の主人は、京都に三日間滞在されると、どの料理店でも鮎と鱧は供されると判断した。鮎や鱧は、市中の勢いのある料理店の方が好印象ではないかと思い、始まりの店では鮎と鱧以外の料理で勝負をした。これは大正解であり「仲間からは、あの牛肉と松茸のすき焼き最高でした。みんなが床で同じ鮎料理を食べているのに、こちらは違う料理で大満足でした」と賞賛の反応であった。三日間の工程を考えるのは簡単なことではない。床は先方のリクエストである。それ以外にどのようなジャンルを選択するか。
和食は必須である。それもできるだけ新店舗で話題性がある店を一軒入れる。もう一軒は、極めて古典的でありながら古さを感じさせない料理店を選ぶ。もしくは超個性派の和食という手もある。だが、和食とは異なるジャンルをいかに入れ込むかがポイントである。
今、京都の街は中華料理が面白い様相を呈しているので、新進気鋭の中華料理店を選ぶことも可能だ。また京都イタリアンというジャンルが成立しているので、その分野から新規を一軒ということも可能だ。加えてランチなら洋食という選択肢もある。和食ばかり食べていると、どうしても食材がかぶることが多い。そこで洋食を入れ込むと、結構満足度が高くなるのだ。
つまり、京都を訪れる人たちのニーズは、第一義に和食の注目店もしくは定番店である。そこからどこまで想定外の飲食店と出会うことができるか、それによって旅もしくは出張の印象が大きく変わってくるのだ。

 

京都らしい和朝食

 いま、京都の朝食事情に大きな変化が訪れている。これまでは宿もしくはホテルの朝食で満足感を得ていた。しかし、せっかく京都に旅をしているのだから「一食たりとも無駄にせず!」という意識が強くなってきた。まずは和食の名店である。なんといっても「瓢亭」の朝粥は観光コースにも組み込まれるほどの定番というか「瓢亭」という「京料理」の象徴のような料理店で朝ごはんを食べるという優越感を感じることが多くの人たちの支持を集めていたのだ。

 そこに加えて「近又」という料理旅館の朝食は、宿泊客でなくとも食べることができる。懐石の宿を謳う。朝食も和食のきちんとした献立が供され人気を博しているのだ。この2軒がいわば和食の王道といえば、新派がぞくぞくと現れているのが現状である。
 一軒は「丹」という三条白川沿にある店だ。こちらは「和久傳」のプロデュースで朝食と昼ごはんの専門店だ。「和久傳」の出身地である丹後地区の食材とメインとした料理が提供される。ここでは大皿もしくは大きな鉢に入った新鮮な食材をつかったおばんざいや焼き魚などを組み込んだ仕立てとなっている。定食でもない、といってビュッフェでもない、そのどちらもの要素をうまくミッックスした料理で多くの人たちがこの存在に愛着を感じている。
 もう一軒は京都の祇園の「花とうろうホテル」に昨年夏に開店した「KISHIN KITCHEN KYOTO」という店。こちらは「草喰なかひがし」の三男・中東篤志さんのプロデュースである。向つけに一飯一椀という構成で、白ご飯とメザシという提供は「草喰なかひがし」のイメージを継承するスタイルである。じわじわと支持層が増えている。ここは昼まで朝食メニューが食べられるというとこも興味ふかい。
 今年になり京都の居酒屋・日本酒のシーンを牽引してきた「馳走いなせや」が京名物つくしの朝ごはん「一汁十菜」を始めたのだ。出し巻きから自家製胡麻豆腐、出汁のきいた炊き合わせ、粟麩入りの白味噌椀など一食で京都の味を堪能できるような献立となっている。ここ一・二年でこのような新たな京都の朝食に一石と投じる存在が次々と登場しているのも見逃せない。もちろんおばんざいを中心とした店など和の世界だけでもかなりのバリエーションが豊かになっているのだ。

 

洋食の定番。喫茶店のモーニング

 洋の世界に目を向けてみると、こちらもバラエティに富んだ展開となっている。定番は「イノダコーヒ」の朝食である。メニューは卵、ハム、サラダがかなりのボリュームで入り、パンとジュースがセットのなるというもの。これが面白いのは、基本旅人が食するのだが、地元に人たちのニーズも多いのが「イノダコーヒ」の特徴である。
 続いて寺町三条にある「スマート珈琲店」の朝食は種類が多彩である。ホットケーキ、タマゴサンド、フレンチトーストなどを選ぶことができる。それらのメニューのクォリテイィが非常に高く、特にフレンチトーストは他ではなかなか出会うことの少ないメニューなので人気がある。
 また五条馬町近くの「市川屋珈琲」の朝食も優れている。こちらの朝食セットはこの「市川屋珈琲」近くのパン屋やハム屋さんの食材を使うことで街のシンボルとしても珈琲屋というポジションを獲得している。「ハム工房古都」のベーコン、「パン屋にこり」の食パン、コッペパンなどを使う。トーストやタマゴサンドもありだ。
 これら前述の三軒はコーヒー専門店の朝食展開である。自分たちの得意分野であるコーヒーを武器に周辺を固めることで多くの客を呼び込んでいる。河原町三条の「六曜社」烏丸六条の「Tour Café」烏丸高辻の「高木珈琲店」なども同じコーヒーを主体とした展開である。

 一方東山三条の「ルバカサブル」はパンがメインの店舗である。朝7時から午前中はモーニング対応で、焼きたてのパンをチョイスして自分なりの定食を作ることも可能なら、セットメニューも充実しているのでそれを選択することも可能である。例えばAセットならパン、バター、自家製ジャム、フレッシュジュースとなるがプラス料金で美山の自家製ハム工房・まつだファームのベーコンがつくなど楽しみの要素も多い。パンを焼いているのが外国人というのもあり外国人率が高いというのも特色である。
 また「カフェラインベック」というパンケーキ専門店の朝食も貴重である。ここは烏丸御池にある「松之助」というNYケーキの系列店でパンケーキをメインにしたモーニングで名高い。モーニングではプレーン、ソーセージ&コーン、リコッタの3種類ありで、焼きたてのパンケーキを食べることができる。
 このようにパンやパンケーキというジャンルの店もモーニングに力を入れてきたのも見逃せない事象である。

 

ほかにも注目の朝食が多数

 その他、京野菜を使うことをメインにする店舗も散見される。また最近では祇園の小さなホテルの一階に京都の人気中華料理店「一之船入」が手がけ、昨年末開店した「GYOZA8」の朝粥定食も注目を集めている。
 このように京都の朝食事情はまさに百花繚乱の様相を呈している状態である。そしてこれから観光客がますます増える傾向にあるので、今後朝食事情はもっともっと興味深い展開になるだろうと期待をしている。

 

肉文化圏・京都の焼肉モーニングに注目

 そのような状況にある京都の街で、焼肉の老舗「天壇」の新店舗が朝食シーンに参入というのも面白い展開である。京都人は牛肉、豚肉、鶏肉を合わせた消費量は全国でも確実にベスト3に入るほどの肉文化圏とも言える。そして焼肉店も結構多いというのも事実だ。焼肉店分布はミナミがカジュアル、キタがやや高級というイメージが漂う。また北山は建築も立派な大箱の焼肉店が並ぶエリアでもある。その一画に「天壇」は、お粥、スープ、お茶漬け、焼肉というじつに多種多彩なメニューを用意した。

 「天壇」の朝食は、お粥、お茶漬け、焼肉と3種類ありだ。
 まずは、お粥。これも特製あわび粥、参鶏湯粥、季節の野菜のお粥と常時3種用意されている。
この季節はグリーンピースのお粥だ。春の弾ける青々しい香りと味わいが印象的な味わいが嬉しい。かつおとグリーンピースの出汁は身体に満ち溢れてゆく感じといえる。爽やかな目覚めとともに食べたいお粥である。
 あわびのお粥は、ふっと香るごま油の香りが食欲を刺激する。たっぷり入ったあわびの噛み心地とお粥の滑らかな食感が贅沢な気分を誘ってくれる。あわびのコクがしっかり生きる献立である。
 参鶏湯粥は、鶏と朝鮮人参の出汁は栄養価満点で、そのエキスが米を包む。一口含むと、舌をうまみを覆ってゆくように感じる。食べ進むにつれ、身体が元気になってゆくのを実感するのであった。このようにお粥で3種の選択があるというのはありがたい。
 またお茶漬けの2種あり。特製梅キムチ茶漬けは、梅の酸味がほどよくきいており、胃袋を優しく揺り起こしてくれるのだ。特製牛しぐれ煮茶漬けは、牛肉の濃厚な味わいがお粥とのマッチングを高めてくれる。お茶漬けなので液体が大切である。どちらも鶏とかつお節でとった出汁の役割が大きい。さらりと喉を通ってゆきながら、きちんとうまみを表現してくれるのが、この出汁の素晴らしいところである。
 そして天壇ならではの焼肉御膳。厳選されたロース肉を自家製のタレで焼き上げる。これを天壇特製の洗いたれで食べるのだ。2種のたれが牛肉をより味わい深いものに仕上げるのであった。朝から、元気であることを自覚するセットなのである。

 このように3種、6つのメニューが揃った天壇の朝食は、これまでの京都の朝食シーンに新たなページを開く予感がするのだ。

 

門上武司食研究所 門上武司