【特集】JAXAやノーベル賞受賞の研究を手伝う方に認められ、フランクミュラーからも仕事の依頼を受けた、異色の窯元 宇治・炭山「暁陶房」 笹谷 博氏にインタビュー。

陶芸作家の⽅々が集まる宇治・炭⼭。今回はそんな炭⼭の「暁陶房(あかつきとうぼう)」さんにお邪魔して、陶芸作家、笹⾕ 博 ⽒(雅号︓⾶露 ⽒)にインタビュー取材をさせていただきました。

秀才を唸らせた「珈悦」

こうえつの写真

ーさっそくですが、こちらの珈琲焙煎器が気になっていまして。

「珈悦(こうえつ)」ですね

ーはい。陶器でできた筒型の焙煎器はとても珍しいですよね。しかも「珈悦」で焙煎されたコーヒーはとても美味しいです。ところで、ご⾃⾝もコーヒーの愛好家でいらっしゃるとか。

コーヒーは好きですよ。普段からよく飲んでいます。

ーコーヒー好きの⽅が開発された焙煎器、なんて良いですね。でも陶器で焙煎器を作るのは⼀筋縄ではいかなさそう…。材料の粘⼟は普通の器に使われる物と同じ物ですか?

焙煎器なので、直⽕にかけても割れない粘⼟を使⽤しています。専⾨的な話になりますが、リチウム⼊りの粘⼟は熱による膨張率が⼩さく伸び縮みしにくいので、直⽕で焚いても割れないんですよ。

ー膨張しやすい粘⼟で作ると…?

熱された部分だけが膨張してしまうので、すぐに割れてしまいます。

ーそうなんですね!ところで、陶器の焙煎器を最初に作られたのはいつ頃になりますか?

10年前です。今年(2019年)の4⽉でちょうど10年が経つんですよ。その間、改良に改良を重ねてきました。

ー10年間も!現在の「珈悦」になるまでの年⽉の重みと有難みを感じますね。

笹谷さんの写真1

はじめの頃は⼤きな急須のような形で、中にコーヒー⾖を⼊れて⼿で揺らしながら焙煎するタイプだったんですよ。

ー現在の「珈悦」とは違う形ですね。そのタイプの物にも何か独⾃の⼯夫をされていましたか?

コーヒー⾖って、⽚⾯は丸く膨らんでいますが、⽚⾯が平らになっていますよね?

ーそう⾔えばそんな形をしていた様な…。でもコーヒー⾖と焙煎器の形にどの様な関係があるのでしょうか?

⽚⾯が平らだと、⾖が⾃分で転がってくれないので平らな面ばかり熱され続ける事になります。そこで、⾖を上⼿く転がすために底に凹凸を付けました。

ーなるほど!それなら揺らした時に⾖が転がりますね。すごいアイディア!

ただ、そのタイプの物だと⼿で揺らし続けるのが⼤変です。そこで筒型の物に改良しました。取っ⼿で回すタイプです。

ー当初の物も充分すぎるほど素晴らしいと思ったのですが、そこからさらに⼤きな⾶躍があったんですね。でも確かに揺らすより回す⽅が楽そうですし、⾖に均⼀に⽕を⼊れるのも⽐較的簡単そうに思えます。⼤きな変化はまだありましたか?

昨年、やっと電動化出来ましたよ。

ー⾃動で回ってくれる訳ですね!

モーターも「珈悦」に使える物を⾊々と探しました。陶器の焙煎器は重いので、これを回す為の⼗分なトルク(力の強さ)が必要です。さらにプーリー(円盤状の部品)の⼤きさによって回転のスピードが異なりますから、ちょうど良いスピードになる直径の物を⾒つけなくてはいけません。

ーそれは⾊々と⼤変そうですね。回転が遅すぎると⾖が上⼿くかくはんされない、という事ですよね。

そうですね。でも、回転が速すぎてもいけないんですよ。バケツに⽔を⼊れて振り回した時と同じで、回転が速いと遠⼼⼒で⾖が外側に張り付いてしまいます。そうすると⾖がかくはんされず、同じ⾯ばかりが熱されてしまいます。

ーなるほど。

ナッツの写真

コーヒー⾖を焙煎する時は、パチパチという⾖の弾ける⾳を確認しながら焙煎時間を調整します。アーモンドやカシューナッツなんかもローストできますよ。よろしければコーヒーと⼀緒にどうぞ。

ーありがとうございます。…わ。⽢みがあってとても美味しいです!やはり陶器でローストされると何かひと味違うような…そしてやっぱりコーヒーも美味しいです。

陶器の焙煎器で美味しくなるのは、きっと⼟鍋で炊いたごはんが美味しいのと同じ様なものじゃないですかね。

ー陶器ってすごいんですね。そう⾔えば「珈悦」はかなりすごい先⽣⽅からも⽀持されている様ですが、そのお話を聞かせていただいても良いですか?

2017年に久留⽶⼤学で開かれた国際会議での事ですね。ノーベル賞をもらった研究を手伝っていたり、JAXAの研究などをされている㈱日本エイピーアイ(http://www.apinet.co.jp/)のブースで「珈悦」が紹介されて、その時NASAやスタンフォード⼤学の先⽣⽅が⼤変興味を⽰して下さいました。

ーJAXAにNASA、スタンフォード⼤学!すごい名前が出てき過ぎて、ちょっと頭がついていけません…。まとめると、改良に改良を重ねて作り上げられた「珈悦」がついに世界に認められた、という事でしょうか。もう、驚きしかありません。

 

フランクミュラーからの依頼

フランクミューラーの写真1

ーこちらの作品は何に使う物でしょうか?珍しい形をしていますね。

それは葉巻⽤の灰⽫ですよ。

ー灰⽫!とても豪華で何とも粋な形ですね。

この煙管(キセル)の形は、もともとは銀座の「サロン・ド 慎太郎」様から祇園にあった京都クラフトセンターへ「何か良い葉巻⽤の灰⽫を作って欲しい」と依頼された時に作らせていただいた物です。

ー煙管型にするアイディアはどうやって思いついたのですか?

クラフトセンターの帰りに南座の前を通った時、歌舞伎の⽯川五右衛⾨が煙管を⼿に持っているイメージが頭に浮かんで「これだ!」と思いました。そこで煙管型の灰⽫をこしらえて、和柄の絵を合わせる事にしたんです。

ー帰り道にすぐアイディアが浮かんだんですね!でもこちらの灰⽫は和柄ではありませんね。

それはフランクミュラーの方から依頼があって作った物なんですよ。

ーえ!フランクミュラーって、あのフランクミュラーですか?

はい。東京で開くパーティーのために作ってほしい、という事で作らせていただきました。

ーそうなんですね!黒々と艶やかで深みのある黒⾊も、きらびやかな⾦⾊に負けず劣らず美しいですね。

黒⼟に黒釉薬を掛けて焼き上げているんですよ。

フランクミューラーの写真2

ーこの様な斬新でユニークな作品を⾒ていると、こちらまでワクワクしてきます。やはりお仕事は楽しんでされていますか?

何かに取り組んでいる時はやはり楽しいです。常に「今までにない新しい物を作りたい」という思いがあるので。⾯⽩い事をしていたいですね。

ー先ほどの「珈悦」にしても、今までにない物を作る中で⾊々な研究を楽しんでおられたんですね。こちらの灰⽫も、本当にお仕事を楽しんでおられる⽅ならではでの発想が作品の魅⼒となって、フランクミュラーの⽅の⼼を動かしたのかもしれませんね。

 

伝統を⼤切にしながら、伝統に⽢えず、伝統に縛られない

陶器の写真1

ー個性的な作品は他にもありますか?

こちらは20代の頃に作った、⽬の錯覚を利⽤したお茶碗です。皆さん説明すると驚かれるんですが、説明しないと「⾯取りがされて表⾯がかくかくした普通の茶碗だ」と思われるんですよ。

ーえ、違うんですか?

本当は⾯取りなんてしていなくて、表⾯はつるっとしています。模様による視覚効果でかくかくとした形に⾒えるんですよ。

ーあ、本当ですね!触ってみるとつるっとしていますね。

陶器の写真2

こちらの抹茶茶碗は、パソコンで切り抜いて作った型紙で花の模様を付けているんですよ。パソコンも好きなので、こういう技法もやってみています。

ー「パソコン」と「陶芸」は遠いところにあるイメージだったので⾯⽩いです!

⾊々やってみたくて、先⽇は3Dプリンター講習も受けてきたんですよ。

ー3Dプリンターですか!思いもよりませんでした。お話をうかがっていると好奇⼼、挑戦、そして探究⼼によって新たな可能性が開けてくるのではないか、とつくづく考えさせられます。

どうせなら、今まで誰も作っていないものを作り出したい、出来ないと思える事にも挑んでみたい。そういった思いで仕事をしていると、周囲の⽅々も「あの⼈なら作ってくれるかもしれない」と、変わった仕事の依頼がくるんですよ。

ーそこでまた⾯⽩い物が⽣まれる訳ですね!…でも実際、これはかなり難しいぞ、という事もありませんか?

私はある種プロデューサーの様な考え⽅で、新しい物を作ろうとするとき、今の自分に出来る技の範囲を無視してイメージを作ります。そして自分に出来ない部分は、陶芸と無関係の業種も含めてそれぞれに卓越した方々に依頼して、完成度の高い物作りを目指しています。自由な発想で楽しんでやっていると、新しい技法を編み出すこともあるのでますます面白くなります。

ーなるほど!そうすると諦めるという事も少なくなりますよね。そしてどんどん新たな可能性が広がっていく、さらに新たな挑戦の中で今までになかった技法が⽣まれる、という良い循環になるんですね。

今後も「伝統を⼤切にしながら、伝統に⽢えず、伝統に縛られない」をモットーに、京焼の伝統を⼤切にしつつ新たな挑戦をしていくつもりですよ。

ー伝統を⼤切に、新しい事に挑み続けるーどこまでも可能性が広がっていきそうですね!本⽇は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。⼤変勉強になりました。

【暁陶房】
住所 京都府宇治市炭山久田2-7
電話 0774‐32‐5909
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