
静かな山間に佇む高野山真言宗 正寿院(京都府綴喜郡宇治田原町)。
実に200年以上ぶりとみられる御本尊・秘仏 十一面観世音菩薩(鎌倉時代)の修復作業が行われる中、今年8月、仏様の胎内より経巻(巻物)が見つかりました。
現れたのは、時を超えて眠り続けていた95枚の経巻。
観音様のお姿を表す印などが見られる94枚と、それらに大切に護られるかのように納められていた1枚の墨書きの文書です。
(調査の結果は今後、明らかになる予定です。)
副住職の久野村さまにお話をうかがったところ、大きな驚きとともに深い感謝を抱いておられるとのことでした。
「今回見つかった経巻は、先人たちの想いが託されたものだと受け止めています。幾多の歳月を経て、なぜこの時代に生きる我々が見つけるに至ったのかと想いを馳せることができ、そのありがたさを感じております。そしてあらためて、こうして人々の手によって護られ、紡がれてきたものがあることを実感し、感謝の念を抱いております。」
正寿院の歴史は決して平坦なものではありませんでした。
二度の猛火に包まれ、江戸中期には全焼。
そのとき当時の住職や地域の方が扉をこじ開けて炎の中から救い出された仏様が、こちらの十一面観世音菩薩でした。
残したいものを人から人へ、時代から時代へと受け継いでゆくということ。
その重みと尊さ、そして本質的な人の心の美しさが、ぐっと胸に迫ります。

また、今回の発見ではSNSでも大きな反響が巻き起こりました。
「これだけの歳月を経てもなお、和紙や墨はその形をとどめている―。デジタルが普及したこの時代に、若い世代にもアナログならではの素晴らしさが伝わったことを喜ばしく思います」と久野村さま。
「そして後世へ紡いでいきたいという願いは、職人の方々の技術によって結実するのだ、ということを感じ取られた方が1人でもおられれば、心より嬉しく思います。」
先人たちが守り抜いた「心」は現代の私たちへ何を語りかけ、どのように響くのか。
それはきっと、目まぐるしく変化する時代の中で見失いがちな、人の営みの原点なのかもしれません。
