昨年宇治市に誕生した、「紫式部ゆかりのまち宇治魅力発信プロジェクト」のキービジュアル。
市内に本社を構える株式会社京都アニメーション(以下、京都アニメーション)とのコラボレーションで制作された色鮮やかな一枚は、見る者の想像を掻き立てる。
紫式部を思わせる人物や、様々な時代の人々が行き交う宇治橋。
宇治川や上流の風景に、天を舞う鳳凰や舞い散る茶葉―。
そこには歴史ある宇治の軌跡、そして過去から未来へと続く物語があった。
3名の学生を案内するのは、宇治市観光振興課の鈴尾氏(写真右)だ。
宇治のまちは、土地の物語を知る彼女と巡ると殊更面白い。
一枚の絵に収斂されたまちの魅力とは―。
三月某日、インタビュー取材を行う為、我々は鈴尾氏の元へと向かった。
キービジュアルの趣意
―早速ですが、今回のキービジュアルはどのような位置付けのものでしょうか。
鈴尾氏:まず、紫式部を主人公とした大河ドラマ「光る君へ」(NHK)の放送を契機に、市で「紫式部ゆかりのまち宇治魅力発信プロジェクト」が立ち上がりました(※1)。そうした中で、市が京都アニメーション様に依頼し、地域貢献のためと快諾して下さって制作することになりました。
鈴尾氏:宇治には大変長い歴史があり、紫式部の時代に限らず様々な要素が積層しています。現在も諸所に歴史の痕跡が残り、一つひとつを辿ると様々な歴史の物語に出逢えたり、文化一つを取っても様々な謂れがあります。
―それは大変興味深いですね。
鈴尾氏:更に物語は過去のみならず、現在、未来においても紡がれていきます。そのような意味も込めて、今回は平安時代に焦点を絞るより、縦に広く重層的なものにしたいと考えました。
―なるほど。
鈴尾氏:今回のキービジュアルは宇治が紫式部や平安時代の息吹を感じる地であることを表現しているだけでなく、宇治の長い歴史や文化をも包括し、象徴するものとなっています。
※1 宇治は紫式部による『源氏物語』宇治十帖(最後の十巻)の主な舞台となっている。
変わらないもの・変わりゆくもの
鈴尾氏:さて、キービジュアルの制作に当たって、数々の要素を一枚の絵に落とし込むことになりました。
―様々な歴史や文化を集め、一つの作品として魅力的に表現する…何とも難しそうです。
鈴尾氏:ところが、京都アニメーション様に宇治の歴史についてお話しさせて頂く中で、横軸・縦軸を使って考えてみては、とのアイデアが出たんです。そこから宇治の変わらないもの・変わりゆくものを組み上げて、一つの作品へと昇華する作業が始まりました。
―なるほど。
鈴尾氏:変わらないものの象徴としては、宇治橋から望む宇治川上流の風景を取り入れたい、という強い思いがありました。自然が残り、山々の間から川が流れ出し、小島が浮かぶ…それは今も昔から殆ど変わりません。
―風光明媚な宇治の魅力も感じますね。
鈴尾氏:そして宇治橋は、架橋の記録が残る中で日本最古の橋です。宇治橋断碑によると646年架橋。このように記録が残されたことから、公共事業として橋が架けられたこと、そしてそれだけこの地が重要な交通の拠点であったことが窺えます。
―それはまた面白いお話ですね。
鈴尾氏:実際、奈良の都・京の都を繋ぐ場所に位置し、また奈良から東国の方へ向かう際には必ず通る交通の要衝でした。地図を見ると分かりやすいですよ。
―本当ですね。この辺りは山が多く、通れる場所が限られているようですね。
鈴尾氏:そういった要因もあり、歴史上、橋合戦や宇治川の先陣争いが起こるなどこの地をめぐって様々な物語が生まれました。もちろん『源氏物語』宇治十帖にも描かれています。
―いつの時代も要となる場所にはドラマがありますね。因みに宇治橋より下流側はどうなっているのでしょうか。
鈴尾氏:現在見られる下流側の川筋は、太閤堤が築かれた秀吉の時代以降のものとなっています。それ以前は、現在の宇治橋から上流約1キロメートル程の範囲が宇治川と呼ばれ、それより下流はすぐ西へ逸れて巨椋池へと流れ込んでいました。
―巨椋池は昭和の時代に干拓されましたが、非常に広大だったようですね。
鈴尾氏:そうですね。そして、宇治川が巨椋池へと流れ込んでいた名残は今も感じることができます。三の間(※2)から見下ろすと、流れが一部西の方へ向いているのが見て取れますよ。
―ああ、本当ですね。そうやって様々な出来事を経て、今のまちが形成されてきた―。キービジュアルでは変わりゆくものを人物等で表現されていますね。
鈴尾氏:奈良時代、平安時代、江戸時代、明治時代等々…そして現代。様々な時代の人々が描かれています。乗り物も同様に、牛車やバイク、自動車が見られます。また、絵の中には過去や未来を象徴する色彩が織り交ぜられ、鮮やかに表現されています。
※2 宇治橋から川の上流側に張り出した部分。西詰から三つ目の柱間に設けられており、鈴尾氏によると、この辺りが最も川の流れが速い場所に当たる。豊臣秀吉が茶会の為に、三の間から釣瓶を垂らし水を汲み上げさせたと言われ、現在も毎年「名水汲み上げの儀」が執り行われている。
菟道(うじ)で紡がれてきた物語
―宇治にまつわる様々なモチーフも散りばめられていると伺いましたが、どういったところでしょうか。
鈴尾氏:例えば天を舞うのは平等院鳳凰堂の鳳凰、風に乗って飛んでいるのは茶の葉、そして手前には「市の鳥」カワセミがいます。
―本当ですね。
鈴尾氏:こちらを向いて歩く現代の女性が主人公なのですが、彼女のスカーフには「市の花」であるやまぶきの模様があしらわれ、耳には茶葉の飾り、そして手にしているパンフレットには、実際の市公式観光パンフレットにも配されている「Uji City」の文字や三の間が見られます。
―色々と楽しいですね。軽やかなスタッカートのように、絵全体にリズム感を演出しているようにも感じられます。ところで主人公がいるということは、ストーリーがあるのでしょうか。
鈴尾氏:はい。主人公は観光客の茜、23歳です。彼女が宇治のまちを歩き、様々な時代の歴史や文化を知っていく―。このストーリーにはナビゲーターが必要となり、兎のキャラクターが登場することになりました。背には宇治の市章を付けています。
―兎ですか。
鈴尾氏:昔、宇治は「菟道(※3)」と表されました。この辺りには、菟道稚郎子命(うじのわきいらつこのみこと)が道に迷われた際に一羽の兎が現れて振り返り振り返り導いた、との故事も残っています。
―こちらの兎や三の間を含めた宇治橋は、プロジェクトのロゴにも描かれていますね。…今回は貴重なお話をお聞かせいただき有難うございました。宇治の多彩な物語、その一つひとつを紐解いてみたくなりました。
※3 「菟」はうさぎを表す。うじ。
キービジュアル・映像の世界に飛び込む
インタビューを終えてキービジュアルを見返すと、改めて膨大な時の流れ、歴史のダイナミズムを感じた。
時と空間が交差する一枚の絵を入口に、過去・現在・未来の物語が次々と扉を開いていく。
呼び覚まされる土地の記憶、躍動する宇治―。
そして現在、キービジュアルに描かれた人物等が登場する映像も公開されている。
楽曲は宇治のまちからインスパイアされたオリジナル曲。
約6,500枚の作画から制作された約6分間の本編動画は、専用サイトより視聴できる。
【本編動画の視聴方法】
JR宇治駅前観光案内所・京阪宇治駅前観光案内所・観光センター等に配架のチラシに掲載のQRコードより、宇治市内で専用サイトにアクセスし、簡単なアンケートに回答して再生。視聴期間は2025年3月31日まで(期間中、一時サービス停止の場合あり)。なお、専用サイトでは梶裕貴氏の“光源氏ボイス”による市内23ヶ所音声ガイド等も楽しめる。
【うじには物語がある】
CV 田所あずさ
監督 山村卓也
キャラクターデザイン・作画監督 成松健吾
コンテ・演出 吉田愛夢舞
美術監督 高山真緒
色彩設計 本位田侑紀
撮影監督 須藤啓介
3D監督 髙木美槻
音響監督 鶴岡陽太
音楽 桑原あい、勝矢匠、山田玲
エンジニア 吉川昭仁
(桑原あい appears by the courtesy of UNIVERSAL CLASSICS & JAZZ, A UNIVERSAL MUSIC COMPANY)
アニメーション制作 京都アニメーション
【へいあん探訪マップ】
キービジュアルにも描かれた宇治橋や宇治川を含め、平安時代の面影を感じる様々なスポットへと誘う。JR宇治駅前観光案内所・京阪宇治駅前観光案内所・観光センター・「大河ドラマ展」に配架予定。
Sponsored by 宇治市